埼玉県の昼過ぎ、気温は35度を上回ると思われる時に、熱いかけうどんにネギをたっぷりと入れて、天ぷらを二品。七味唐辛子をかけて。
食べていた場所が悪かった。カウンターの後ろから厨房の様子が見えて、新入りの従業員、正社員なのかアルバイトなのかはわからないが、30歳前くらいの男性が天ぷらの素材に衣をつけている。この男性は初日ではないかと思えるくらいに手つきが覚束ない。横にこれまた正社員かアルバイトなのかわからないお姉さんが付いて教えている。
『これが終わらないうちは帰れないよ』とこのお姉さん。そのうち他のことを終えてまた戻ってきたお姉さんが、何かの道具のありかを聞いている。悪いことに、その男性のすぐ前にその目的のステンレスのパッドが隠れていた。男性はその道具の呼称さえ知らなかったようだ。目がおよいでいる。私なら一言、『しらねぇよ』ぐらい言いそうな場面なのだが、その男性はじっと衣付けを続けている。確かに手は遅い。
感覚的なものでその場面を推測することは良くないとは思っても、自分の経験がそれを許さない。一か月後にまたこの店を訪れた時に、果たしてこの男性がいるかどうか。また店に入った時から食べ終えて出るまでの間に、行列ができるほどに込み合っていた店内から『いらっしゃいませ』『ありがとうございましたd』という声がほとんど聞こえなかったこと、従業員の顔がコマーシャルのように生き生きとしていなかったこと(あれはコマーシャルと言われればそれまでなのだが)がどうしても気になる。
バブル崩壊後、失われた20年、25年(何が失われたかは主語がないのでわからないが)は、正常な労務管理と、従業員を大事にするという正常な感覚が失われた年月であったと思う。低い賃金と劣悪な労働環境であっても、使ってやっているんだという使用者側の姿勢はこの年月の間に定着して、当たり前のようになっている。これは最前線の従業員が、かつての日本軍の歩兵のように、兵站が枯れて満足な補給の無いまま使い捨てにされていく状況と変わることはない。ただ、この感覚から早く脱出した企業だけが、これからの経営に手ごたえを感じられるような気がするのは私だけだろうか。
さて、丸亀製麺の教える側の女性は、誰に今日は仕事が終わるまで帰さないぞと言える権限を与えられたのか。また働く人たちが、どうしたら生き生きと働けるかを誰が考えているのだろうか。 後味の悪い昼食であったことは間違いない。
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